Step 7

運営準備

建物ができても人がいないと始まりません。採用と集客のコツ。

最終更新: 2025-12-25

建物が完成し、消防検査もクリアした。でも、そこで終わりではありません。 福祉事業において最も難しく、かつ重要なのが「人」の問題です。 「建物はあるのにスタッフがいない」「オープンしたのに入居者が来ない」 こうした事態を避けるための、現場視点での運営準備ガイドです。


1. 最大の難関:「サビ管」の採用

グループホーム運営において、サービス管理責任者(サビ管)は扇の要です。 彼らがいなければ、指定申請すらできません。しかし、サビ管は慢性的な不足状態にあります。

なぜ見つからないのか?

  • 資格要件の厳しさ: 実務経験に加え、研修の修了が必要です。
  • 引く手あまた: どの事業所も喉から手が出るほど欲しがっています。
  • 責任の重さ: 個別支援計画の作成、スタッフ指導、関係機関との連携など、業務は多岐にわたります。

採用を成功させるポイント

  1. 早めに動く: 開設の半年前から動き出しても早すぎることはありません。
  2. 待遇以外の魅力を: 給与競争では大手に勝てません。「どんなホームを作りたいか」「どんな支援を目指すか」というビジョンを熱く語り、共感してくれる人を探しましょう。
  3. 紹介会社に頼りすぎない: 紹介料は高額(年収の30%程度)です。まずはハローワークやSNS、知人の紹介など、コストのかからない方法から試しましょう。

2. スタッフ(世話人・生活支援員)の採用と研修

サビ管が決まっても、日々の支援を行うスタッフがいなければ現場は回りません。

ターゲット層

  • 主婦(夫)層: 家事経験が豊富で、生活支援(料理・掃除)が得意な方が多いです。
  • シニア層: 人生経験が豊富で、利用者さんの話し相手としても頼りになります。
  • 福祉学生: 将来の担い手として、アルバイトから入ってもらうのも手です。

研修の重要性

「誰でもできる仕事」ではありません。障害特性の理解や、虐待防止、緊急時の対応など、最低限の知識は必須です。

  • 座学: 障害特性、虐待防止法、プライバシー保護など。
  • 実技: 調理、掃除の手順、記録の書き方など。
  • OJT: 最初は経験者と一緒にシフトに入り、徐々に慣れてもらいます。

3. 利用者募集(営業活動)

「良いホームを作れば、自然と人が集まる」というのは幻想です。 特に新規参入の場合、知名度はゼロです。積極的に動かなければ、空室は埋まりません。

誰にアピールするか?

利用者さん本人やご家族に直接アプローチするのは難しいです。 キーマンは、利用者さんのケアプランを作成する 「相談支援専門員(相談員)」 です。

営業のコツ

  1. 相談支援事業所を回る: 地域の事業所リストを作成し、パンフレットを持って挨拶に行きましょう。
  2. 「強み」を伝える: 「どんな障害特性の方に対応できるか」「夜間支援体制はどうか」「食事へのこだわり」など、具体的な特徴を伝えます。
  3. 空き情報を定期発信する: FAXやメールで、最新の空き状況を知らせましょう。「あそこなら空いているかも」と思い出してもらうことが重要です。
  4. 内覧会を開催する: 実際に建物やスタッフの雰囲気を見てもらうのが一番です。相談員さん向けの内覧会を企画しましょう。

4. 運営開始後の「想定外」に備える

いざオープンすると、様々なトラブルが起きます。

  • 利用者さん同士のトラブル: 共同生活なので、相性の問題は必ずあります。
  • 近隣からの苦情: 騒音やゴミ出しなど。日頃からの挨拶やコミュニケーションが大切です。
  • スタッフの急な欠勤: 余裕を持ったシフト組みや、緊急時のバックアップ体制を整えておきましょう。

大切なのは「記録」

日々の支援記録はもちろん、ヒヤリハットや事故報告書など、記録は自分たちを守る武器になります。 「言った言わない」のトラブルを防ぐためにも、丁寧な記録を心がけましょう。


5. 実地指導・監査で困らないために(最初に整える)

運営が軌道に乗ってくると、数年に一度のペースで行政のチェック(実地指導・運営指導・監査など)が入ります。 ここは「完璧にやる」より、まず いつ見られても困らない最低ライン を作るのが現実的です。

まず揃える「運営の基本セット」

以下は、現場で抜けやすいのに、指導で見られやすい代表例です(様式や保存年限は指定権者で違うので、最終確認は必ず自治体へ)。

  • 契約まわり: 重要事項説明書 / 利用契約書 / 運営規程(3つが矛盾しない)
  • 支援の根拠: アセスメント / 個別支援計画 / モニタリング / ケース記録
  • 提供の証拠: 支援記録(いつ・誰が・何をした) / 連絡記録(家族・相談支援・医療)
  • 勤務の証拠: 勤務形態一覧表 / シフト / 出勤簿 / 研修記録
  • 安全・権利擁護: 虐待防止の体制と研修 / 身体拘束の適正化(手続きと記録)
  • 苦情・事故: 苦情受付の体制 / 事故報告・ヒヤリハット / 再発防止の記録

記録のコツ(後で楽になる)

  • 「誰が・いつ・どこで・何を・どう対応した」を 短く固定フォーマット で残す
  • 書き直しが発生した場合は、二重線・訂正印など ルールを決めて統一 する
  • 記録の置き場所を分散させない(紙・スプレッドシート・チャットが散らばると、当日に探せません)

6. お金と請求(事故が起きやすいところ)

運営が荒れやすいのは、支援内容より お金 のほうが多いです。 利用料や実費の扱い、立替、預り金は、最初にルール化しておくと揉めません。

代理受領(給付費)と利用者負担の整理

  • 給付費は「法定代理受領」で事業者が受け取るのが一般的です(説明・同意の流れを作る)
  • 自己負担や実費は、請求書・領収書を 毎月セット で整える
  • 「何が給付で、何が実費か」を、重要事項説明書と請求書で 同じ言葉 にする

受給者証(支給量)と契約の管理

  • 受給者証の 支給決定内容(支給量) と、契約内容がズレると請求トラブルになります
  • 更新・変更のタイミング(区分変更、入院、長期不在など)を、相談支援専門員と 早めに共有 する

預り金・立替があるなら「二重チェック」

  • 預り金は、入出金の記録と残高確認を 必ず2名 で回す(小さくても事故が起きます)
  • レシート添付、残高の月次突合、通帳・現金の保管ルールを決める

7. 安全(事故・感染症・災害)とBCP

「何も起きない」を前提にすると、起きた瞬間に崩れます。 完璧なマニュアルより、最低限の手順と訓練と記録が大切です。

災害・避難訓練

  • 避難訓練は 実施して終わり ではなく、実施記録(日時・参加者・内容・気づき)までセット
  • 夜間想定の訓練も、年1回は入れておく(現実に近いほど強い)

感染症・食中毒

  • 体調不良が出たときの連絡順(誰に、いつ、何を)を決める
  • 消毒、隔離、受診付き添い、家族連絡までの流れを チェックリスト化 する

服薬管理(誤薬を防ぐ)

  • 服薬のルールは「人に依存」させない(置き場所、手順、ダブルチェック)
  • いつ・誰が・何を確認したかを記録し、ヒヤリが出たら手順を更新する

8. 苦情・トラブル対応(入口を作る)

苦情はゼロにはできません。大事なのは「言いやすい入口」と「記録」です。

  • 受付窓口(担当者)と、連絡手段(電話・メール等)を 最初に明示 する
  • 受けたら、事実関係・対応・回答・再発防止まで 一枚で追える 形で記録する
  • 近隣苦情は、感情の話になりやすいので、事実(日時・状況)を先に押さえる

9. 相談支援・家族・医療との連携(入居後が勝負)

利用が続くかどうかは、ホームの中だけで決まりません。 相談支援専門員や家族、医療機関と 情報が回る状態 を作ると安定します。

  • 入居直後は、情報共有の頻度を上げる(小さな違和感を放置しない)
  • 個別支援計画の見直しは、困りごとが出たタイミングで早めに動く
  • 「支援の方針」と「できる/できない」を、言葉で揃える(曖昧だと事故になります)

10. 加算・減算(自治体差が出るので共通の考え方だけ)

加算・減算は、単に「単位数を増やす」ではなく、体制と運用が実態として回っているか を問われます。 自治体ごとに届出や確認方法が違うので、ここでは 共通して外しにくいポイント だけ整理します。

まずは原則:加算は「届出・体制・証拠」の3点セット

  • 届出: 加算を取る前に、指定権者への届出が必要です(いつから算定できるかは期限に影響されます)。
  • 体制: 体制の条件(人員・研修・委員会・ルール・マニュアル等)が 継続して 満たされていること。
  • 証拠: 勤務実績、巡回、連絡対応、支援提供の記録など、後から追える証拠があること。

「やっているつもり」でも、記録が散らばっていたり、勤務実績と支援記録がつながっていないと、監査では弱いです。

よくある落とし穴(共通)

  • 個別支援計画に位置付いていない: 加算の趣旨が、個々の利用者の支援として必要性・内容まで落ちていない。
  • 勤務の実態が追えない: シフト(予定)と出勤簿(実績)と、支援提供の記録が整合しない。
  • 夜間の実績が曖昧: 夜間の連絡・巡回・対応が、誰がいつ何をしたか残っていない。
  • 「委員会/研修/指針」が形だけ: 開催・研修の実施・周知の記録がなく、更新も止まっている。

夜間支援等体制の考え方(例)

夜間支援等体制は自治体の確認が入りやすく、特に 個別支援計画への位置付け実績が分かる記録 がポイントになりがちです。

  • 利用者ごとに「夜間に何が必要で、どう対応するか」を個別支援計画で説明できる状態にする
  • 夜間の体制(担当者、連絡手段、巡回の考え方、緊急時対応)を、運営規程や手順で説明できるようにする
  • 実績は「巡回した/連絡を受けた/対応した」を、最低限追える形で残す(後からまとめて提出できる形が強い)

減算は「うっかりの長期化」が最悪

減算は、状態が長引くほどダメージが大きくなります。 現場では次が起点になりやすいです。

  • 個別支援計画: 作成や見直しが滞る、モニタリングが形骸化する
  • 義務化された横断項目: 虐待防止、身体拘束の適正化、BCP などの運用が止まる

回避策はシンプルで、月次で「計画の期限」「委員会/研修の実施」「体制の変更点」をチェックして、未実施が出たらすぐ潰す運用にすることです。


まとめ:人が定着するホームを目指して

運営が安定するかどうかは、結局のところ「人」にかかっています。 スタッフが笑顔で働ける環境であれば、利用者さんも安心して過ごせます。 逆に、スタッフが疲弊していると、それは必ず利用者さんに伝わります。

「建物」というハードだけでなく、「人」というソフトを大切にする。 それが、長く愛されるグループホームを作る秘訣です。


参考リンク(一次資料)