法令(障害者総合支援法・消防法・建築基準法)
最終更新: 2025-12-24
これは法律の条文解説ではなく、「開設を進めるための実務ガイド」 です。 最終的な判断は、必ず所管の自治体(障害福祉課)、建築主事(建築指導課)、消防署(予防課)に確認してください。
0. 最初に知っておくべき「3つの壁」
グループホームを開設しようとすると、必ず3つの法律が立ちはだかります。 これらは管轄がバラバラで、時には「あちらを立てればこちらが立たず」という矛盾が起きることもあります。
- 障害者総合支援法(福祉): 「どんな支援をするか?」
- 建築基準法(建築): 「建物として安全か?」
- 消防法(消防): 「火事の時に逃げられるか?」
最大の失敗パターン 「福祉の指定基準だけを見て物件を決めてしまい、後から消防設備に数百万円かかると判明した…」 これが最も多い失敗です。 このページでは、そうならないための「正しい攻略順序」をお伝えします。
1. 効率的な進め方(攻略チャート)
法律ごとにバラバラに動くのではなく、「3者同時進行」 が鉄則です。
ステップ1:物件の「素性」を知る
まずは、その建物が法的にどう扱われているかを確認します。
- 用途: 「一戸建て」なのか「共同住宅」なのか「寄宿舎」なのか。
- 面積: 延床面積は200㎡を超えているか。
ステップ2:3つの窓口に「同じ資料」で相談する
ここが重要です。福祉課、建築課、消防署に、 全く同じ資料セット を持って相談に行きます。 片方で言われたことを隠してもう片方に相談すると、後で必ず整合性が取れなくなります。
相談資料セット(最低限これだけは!)
- 物件概要: 住所、構造(木造など)、階数、築年数。
- 図面: 平面図(間取り図)。寸法が入っているものがベスト。
- 事業計画: 「定員4名で、夜間もスタッフがいます」といった具体的な運営イメージ。
ステップ3:ハード(建物)を先に固める
「建築」と「消防」の要件をクリアしないと、そもそも住むことができません。 福祉の基準(部屋の広さなど)は後からでも調整しやすいですが、廊下の幅やスプリンクラーの有無は、後から変えるのが大変です。
2. 建築基準法のポイント:用途変更の罠
「普通の民家を使ってグループホームをやりたい」 そう思った時に、最初にぶつかるのが建築基準法です。
「200㎡」の壁
建物の延床面積が 200㎡ を超える場合、用途を「寄宿舎」などに変更する手続き(確認申請)が必要になります。 これには建築士による図面作成や審査が必要で、費用も時間もかかります。 逆に、200㎡以下であれば、この手続きが不要になるケースが多いです(※自治体によります)。
「寄宿舎」への変更
グループホームは、建築基準法上は「寄宿舎」として扱われることが一般的です。 一般住宅とは違い、以下の基準が厳しくなります。
- 防火: 火が燃え広がりにくい壁や天井にする。
- 避難: 廊下の幅や、階段の構造。
- 採光: 居室に十分な光が入るか。
アドバイス 物件探しの段階で、「延床面積」だけは必ずチェックしてください。200㎡のラインは死守ラインです。
3. 消防法のポイント:命を守る設備
消防法は、建物を使う「人」の状態によって厳しさが変わります。 グループホームは「自力で避難することが難しい人が住む場所(6項ハ)」として扱われることが多く、一般住宅よりも厳しい設備が求められます。
必須になりやすい設備
- 自動火災報知設備(自火報):
- 煙や熱を感知してベルを鳴らす装置です。
- 一般住宅用ではなく、施設用のしっかりしたものが必要です。
- スプリンクラー:
- 面積や障害支援区分(重度の方がいるか)によって設置義務が決まります。
- これが最も高額(数百万円〜)になりやすい設備です。
- 誘導灯:
- 非常口を示す緑色のライトです。
- 消火器:
- 業務用消火器の設置が必要です。
「消防法令適合通知書」
福祉の指定申請をする際に、必ず提出を求められる書類です。 「消防署がOKを出しましたよ」という証明書です。 これをもらうためには、消防署への事前相談、工事、そして完了検査が必要です。
4. 障害者総合支援法のポイント:運営の器
最後に、福祉の法律です。 ここでは「利用者が快適に暮らせるか」という視点で基準が作られています。
設備基準(ハード)
- 居室の広さ: 収納を除いて 7.43㎡(約4.5畳)以上 が原則です。
- 定員: 1つの住居(ユニット)につき2人〜10人。
- 共有スペース: 食堂やリビング、お風呂、トイレ、洗面所が必要です。
人員基準(ソフト)
- 管理者: 1名(常勤でなくてもOK)。
- サービス管理責任者(サビ管): 利用者30人に対して1名。
- 世話人: 利用者数に応じて配置(例:4:1、5:1など)。
- 生活支援員: 障害区分が重い方がいる場合に配置。
ここがポイント 「サビ管」は資格要件が厳しく、採用が一番の難関です。 物件が決まってもサビ管が見つからずにオープンできない…という事態にならないよう、早めの採用活動が必要です。
5. 窓口での「賢い」聞き方テンプレート
役所の窓口は、聞かれたことには答えてくれますが、聞かれていないことまでは教えてくれません。 こちらの意図を明確に伝えるための質問リストです。
建築課・建築士に対して
- 「この建物をグループホーム(寄宿舎)として使う場合、用途変更の手続きは必要ですか?」
- 「既存の建物は、現在の建築基準法に適合していますか?(検査済証はありますか?)」
- 「改修工事をする場合、どこまで今の法律に合わせる必要がありますか?」
消防署(予防課)に対して
- 「この建物でグループホーム(6項ハ)をやりたいのですが、必要な消防設備を教えてください」
- 「スプリンクラーの設置義務はありますか?(面積や利用者の区分を伝える)」
- 「消防法令適合通知書の発行までの流れと期間を教えてください」
障害福祉課(指定権者)に対して
- 「この地域の 総量規制(新規開設の制限)はありますか?」
- 「この図面で、設備基準(部屋の広さや廊下幅)はクリアできていますか?」
- 「事前協議の締め切りはいつですか?(指定日の2〜3ヶ月前が多いです)」
まとめ:成功への近道
法令の壁を乗り越えるコツは、「プロを味方につけること」 です。
- 福祉に詳しい 行政書士
- グループホームの実績がある 建築士・工務店
- 地域の事情を知っている 消防設備士
彼らとチームを組むことが、最短ルートでの開設につながります。 自分一人で抱え込まず、早めに相談することをお勧めします。
