なぜ賃貸物件が見つからないのか
制度上は賃貸で開設できる。でも、物件が見つからない。その壁の正体を見ていきます。
「障害者には貸したくない」という現実
前の記事で、障害者グループホームは賃貸物件でも開設できることを確認しました。戸建て・アパート・マンション、いずれの物件タイプでも構いません。
しかし、「制度上はできる」ことと「実際にできる」ことの間には、大きなギャップがあります。
京都府乙訓地域の障がい者自立支援協議会が不動産仲介業者に行った聞き取り調査では、過半数の業者が「障がいを理由に入居を断るオーナーや管理会社が存在する」と回答しています。精神障害者が入居可能な物件は、全体の1割以下という結果も出ました(出典:京都新聞報道 / 土地活用ドットコム)。
大阪で福祉施設専門の不動産仲介を行う「しょーふく大阪」も、障がい者側にグループホームで暮らしたいニーズがあっても、物件を貸し出すオーナーや管理会社が少ないために断念してしまうケースがあると指摘しています(出典:しょーふく大阪)。
オーナーが貸し出しを躊躇する理由として多いのは、以下のようなものです。
- 「不動産の価値が下がるのではないか」 という資産価値への懸念
- 「近隣住民から苦情が来るのではないか」 という管理トラブルへの不安
- 「過去にトラブルがあったから」 という経験則的な拒否
こうした不安の多くは、障害に対する理解不足や偏見に基づくものです。しかし、オーナーにとっては切実な経営判断でもあり、簡単には解消しません。
NIMBY ― 「必要だけど、うちの近くはダメ」
オーナーが物件提供を渋る背景には、近隣住民の反対運動という問題があります。
「NIMBY(Not In My Backyard = うちの裏庭にはお断り)」と呼ばれるこの現象は、社会的に必要な施設であることは認めつつも、自分の家の近くに設置されることには反対するという態度を指します。原子力発電所やごみ処理場と同列で、障害者施設もこの対象になっているのが現実です(出典:済生会 ソーシャルインクルージョン事典)。
毎日新聞の調査では、障害者施設の建設に対して過去5年間で68件の反対が報告されています。しかも対立を把握していない自治体もあり、実数はさらに多いとみられています(出典:障害者ドットコム)。
具体的な事例を見てみましょう。
横浜市瀬谷区のケース(2011年〜2016年)
知的障害者グループホームの建設計画に対し、近隣住民が「知的障害者ホーム建設 絶対反対」と記した看板を掲げました。看板は10枚以上、4年間にわたって掲出され続けました。
住民が挙げた反対理由には「地域の不動産評価の下落が予想される」「子どもが外で安全に遊べなくなる」といったものがありました。最終的に運営予定だった社会福祉法人が撤退を表明し、建設は断念。看板はその後すぐに撤去されました(出典:神奈川新聞 2016年)。
横浜市都筑区のケース(2018年〜2020年)
精神障害者らのグループホーム開設に対し、住民説明会で「不動産価値が下がるのでは」との声が上がり、その後「住民の安全を守れ」と書かれたのぼりが10か所以上に立てられました。約700筆の反対署名も市に提出されています。
運営会社と入居予定者の家族は、障害者差別解消法に基づく紛争解決のあっせんを市に申し立てました。全国初の、グループホーム開設反対を理由とした申し立てでした(出典:神奈川新聞 2020年6月24日)。
法律は変わった。でも、現場は追いついていない
2024年4月、改正障害者差別解消法が施行されました。この改正により、民間事業者による**「合理的配慮の提供」が努力義務から法的義務**に変わりました。
不動産業界においても、障害があることを理由に物件紹介や仲介を拒否することは禁止されています。国土交通省は「物件一覧表に『障害者不可』と記載する」「障害者に対して話も聞かずに門前払いする」といった行為を、差別的取扱いの具体例として明示しています(出典:LIFULL HOME'S Business)。
しかし法改正の効果は限定的です。
LIFULL HOME'Sが行った調査によると、不動産業務従事者の約4割が合理的配慮の提供が法的義務になることを知らないと回答。義務化を知っている人でも、4割以上が内容を「ほとんど理解できていない」「全く理解できていない」と答えています(出典:同上)。
国は「住宅セーフティネット制度」として、住宅確保要配慮者の入居を拒まない民間賃貸住宅の登録を進めていますが、グループホーム用途の物件が十分に流通しているとは言えません。
実は、オーナーにもメリットがある
ここで視点を変えてみます。
グループホームに物件を提供することは、オーナーにとっても合理的な選択肢になり得ます。
- 入居率が高い:障害者側のニーズに対して物件の供給が圧倒的に不足しているため、一般賃貸よりも空室リスクが低い傾向があります。
- 入居年数が長い:一般の賃貸では障害に見合った設備や支援体制が整っていないため、グループホームに入居した方は長期間居住する傾向があります。
- 家賃滞納リスクが低い:入居者の多くは障害基礎年金を受給しており、さらに運営法人との法人契約となるため、個人契約よりも滞納リスクは低いとされています。
- 社会貢献としての価値:ESG投資やSDGsの観点からも、福祉物件への貸し出しは評価される方向にあります。
(出典:しょーふく大阪)
こうしたメリットは、伝えなければオーナーには届きません。
必要なのは、オーナーに一軒一軒、丁寧に交渉し、不安を解消し、実績を積み重ねることです。手間のかかる仕事ですが、それをやらない限り、賃貸でのグループホーム開設は「制度上は可能だが現実にはできない」ままです。
当サイト「グループホームなび」に掲載されている物件は、すべてオーナーとの個別交渉を経て、グループホーム用途での貸し出しに同意いただいたものです。
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出典一覧
- 乙訓圏域障がい者自立支援協議会 不動産仲介業者聞き取り調査(京都新聞報道)
- しょーふく大阪「障がい者グループホームに物件を貸し出す5つのメリット」(2024年3月)
- 障害者ドットコム「障害者施設が近隣住民の猛反発で建たない問題」
- 神奈川新聞「建設断念 障害者差別と看板」(2016年)
- 神奈川新聞「『開設反対は差別』精神障害者GHに住民が反対運動」(2020年6月24日)
- 済生会ソーシャルインクルージョン事典「NIMBY問題」
- LIFULL HOME'S Business「障害者差別解消法とは?賃貸物件の契約に際して不動産会社が知っておくべき内容を解説」
- 健美家「障害者差別解消法改正により『合理的配慮の提供』が義務化。オーナーへの影響は?」(2024年5月)
