急増する事業所と不正の構造
グループホームの事業所は10年で2倍に。しかし、増えたのは「数」だけではありませんでした。
10年で2倍 ― 急拡大の光と影
障害者グループホーム(共同生活援助)は、障害のある方が地域で自立した生活を送るための重要な受け皿です。入所施設からの地域移行が国策として推進されるなか、事業所の数は急速に増えてきました。
財務省が2024年11月に公表した社会保障に関する資料によると、グループホームの事業所数はこの10年で約2倍に増加。なかでも「日中サービス支援型」は、2021年から2022年にかけて56.8%増、翌年も37.8%増と、異例のペースで伸びています(出典:財務省「社会保障」資料 2024年11月13日)。
障害福祉サービス全体の総費用額は2024年度に4.2兆円に到達し、この10年で2倍に膨らんでいます(出典:福祉新聞 2025年11月29日)。
需要があるから事業所が増える。それ自体は自然なことです。全国には2万2千人を超えるとも言われる待機者がいます。
問題は、急増の中身です。
財務省の同資料によると、事業所の運営主体に占める営利法人の割合が大きく増加しています。そして厚労省の「障害者虐待対応状況調査」では、障害者福祉施設従事者等による虐待判断件数が令和5年度は1,194件(前年956件)と大幅に増加しています(出典:厚生労働省「令和5年度 障害者虐待事例への対応状況等」2024年12月25日)。
営利法人の参入自体が悪いわけではありません。しかし、福祉の知識や経験を持たないまま「収益モデル」として参入した結果、ケアの質が伴わない事業所が増えている ― これが、いま起きていることです。
「恵」事件 ― 過去最大規模の不正
この構造的問題を象徴する事件が、2024年に発覚しました。
全国12都県で約100か所のグループホームを運営していた福祉事業会社「恵(めぐみ)」による大規模な不正です。
明らかになった主な問題は以下の通りです。
- 食材費の水増し請求:厚労省の基準では食材の実費を徴収すべきところ、実費の倍以上を請求していた事業所もありました。愛知県内だけで過大徴収額は約2億1,800万円にのぼります。
- 架空の人員配置:実際には働いていない職員が勤務していたかのように偽装。
- 実態のない利用実績:存在しないサービス提供を報酬請求に含めていました。
利用者の家族からは「子どもがいつもお腹を空かせている」「食事の量が少ない」という声が相次ぎ、元職員も「本部から少ない食材費しか来ないので満足に食材が買えない」と証言しています(出典:厚生労働省「株式会社恵からの報告及び行政指導について」2024年8月2日)。
愛知県と名古屋市は県内5か所の事業所に対し、最も重い行政処分である指定取り消しを決定。さらに、厚労省が組織的関与を認めたことで、全国初の**「連座制」適用**が通知されました。12都県にある99か所のグループホームで指定更新が認められなくなり、多数の入居者に影響が出る事態となりました(出典:厚生労働省「株式会社恵からの報告及び行政指導について」2024年8月2日)。
「未経験95%」の開業支援 ― 誰が参入しているのか
こうした問題は、なぜ起きるのか。
背景にあるのが、コンサルティング会社やフランチャイズが主導する参入構造です。
障害者グループホームの開業支援を手がける企業のウェブサイトを見ると、「運営を始めた方の95%は業界未経験、無資格」「異業種オーナー様が参入できるフローをしっかり形成」といった文言が並びます(出典:OWL福祉事業)。
別の開業支援企業では、「フランチャイズであれば業界を知り尽くした本部が経営ノウハウの提供や行政への対応代行をしている」と謳い、未経験者の参入をサポートするモデルが確立されています(出典:GLUG)。
こうしたモデルの多くは、土地の取得・新築建物・開業支援をパッケージにしたものです。初期投資は数千万円規模になりますが、「安定した給付金収入がある」「社会貢献にもなる」というセールストークで異業種の法人を引きつけています。
もちろん、すべてのコンサルやFCが悪質なわけではありません。真摯に支援しているところもあります。
しかし、この構造には根本的な問題があります。
福祉の現場で障害者と向き合ってきた看護師や介護福祉士が「自分の手でグループホームを始めたい」と思ったとき、数千万円のパッケージは現実的ではありません。一方で、収益を第一に考える異業種法人は、コンサルの力を借りて比較的容易に参入できる。
本当に福祉をやりたい人ほど参入しにくい ― これが、いまの業界の逆転構造です。
→ この問題を深く掘り下げた記事はこちら:「やりたい人」ほど参入できない ― グループホーム業界の逆転構造
厚労省も、自治体からは「事業者の運営体制や制度理解が十分でないと感じている場合でも、指定基準をクリアした申請書類が揃っていれば事業者の指定をせざるを得ない」という声が上がっていると報告しています(出典:ニッセイ基礎研究所「グループホームに総量規制?」2025年9月30日)。
制度上、参入障壁は高くない
ここで知っておいてほしいことがあります。
障害者グループホームの開設に、新築の建物は必要ありません。賃貸物件でも開設は可能です。設備基準上、物件タイプの指定はなく、戸建て・アパート・マンションのいずれでも、賃貸でも自己所有でも問われません(出典:ミライクス)。
管理者の要件も、社会福祉主事任用資格を持っているか、社会福祉事業に2年以上従事した経験があれば満たせます。法人設立も1人から可能です。
参入障壁は、制度にあるのではなく、「情報」と「物件」にあります。
では、なぜ賃貸での開設情報が少ないのか。なぜ物件が見つからないのか。次の記事で掘り下げます。
次の記事:なぜ賃貸物件が見つからないのか →
出典一覧
- 財務省「(資料)社会保障(2024年11月13日)」
- 厚生労働省「令和5年度 障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)」(2024年12月25日)
- 厚生労働省「株式会社恵からの報告及び行政指導について」(2024年8月2日)
- ニッセイ基礎研究所「グループホームに総量規制?」(2025年9月30日)
- 福祉新聞「障害福祉の費用急伸 持続可能な制度検討」(2025年11月29日)
